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一期一会について
ichigoichie
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  一期一会
茶湯一会

「一期一会」は、井伊直弼の著書『茶湯一会集(ちゃのゆいちえしゅう)』にはじめて見る熟語である。この書は、彼が石州流茶人としての茶の湯に対する造詣の深さを物語っている。

そもそも茶の交会(こうえ)は、一期一会といいて、たとえば、幾たびもおなじ主客と交会するも、今日の会(え)に再びかえらざることを思えば、実にわれ一世一度の会なり。


 と。つまり、「茶の湯の心得は、一期一会」に帰着すると直弼は言い切る。それ以来「一期一会」のことばは、茶人の間だけではなく広く世間の人々にも知られるようになる。

「幾たびおなじ主客と交会するも、今日の会に再びかえらざることを思えば、実にわれ一世一度の会なり」と彼のいうとおり、おなじ友人に再び会えるという保証はどこにもない。したがって一期一会は、“会ったときが別れのとき”となる。いま、誰かとの出あいを“会ったときが別れのとき”と見すえると自分自身の生きざまを自主的に規正できよう。
 すなわち、会ったときが別れのときだとなると、言葉の使い方、ものの考え方、身体の動作すべてにわたり、「これでいいのか」と自己判断ができよう。一期一会とは、悲哀を呼ぶ感情ではなく、積極的に豊かな人間的生き方を指向する茶の湯の香り高いこころばえに外ならぬことを知るであろう。

時、人を待たず

行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず、淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しく止まることなし。世の中にある人と住家と、またかくの如し。

との、鴨長明の『方丈記』の有名な巻頭文の一節を思い出した。
 川の流れならぬ海のこの波は、あとからあとから押しよせて絶えない。しかも、その波は変わりづめて、もとの水ではない。航跡に浮かぶ白いうたかた(水のあわ)は、終始消えたり結合したりして、じっと止まっていない。ここにも一期一会がある事実を、はしなくも思うのである。
ichigoichie
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出会いの縁

一期一会は、対人関係だけには限らない。時間との出会いも、場所や処の訪問も、おなじく一期一会である。
 わたしは、前夜ラバウルの海岸で、椰子の葉かげからではなく、海辺で南十字星を仰ぎ見た。この地に出征した兵隊さん達は、きっと毎夜、この星を仰いだであろう。どんな思いをこめて十字星に声なき声で語りかけたであろうか。十字星との出あいもまた一期一会である。光の流れは速いから、おなじ星の光を二度と仰ぎ見ることは全く不可能だ。
ラバウル小唄に

星がまたたく            あの星見れば

くわえたばこも         ほろにがい

と。そのほろにがさは、愛する者と別れる悲しみと、わが生命の危機の恐ろしさの味であろう。この味を知って、人間ははじめて、“両手あわせて ありがとう”と二つの手のひらがめぐりあえることになる。感謝の実働の「合掌」に外ならない。

会い難い関係にある者同士が会えるのは、それは「縁」のはたらきによる。どんなに会いたいと思っていても、縁に恵まれなかったら出会いはあり得ない。昔から縁が大切にいわれるゆえんである。
 縁は、しかし、何もせずにただ待望していては得られるものではない。念じつづけ、努力することによって縁は実る。詩人の坂村真民さんは、いみじくも“念ずれば、花ひらく”と詩う。
 武者小路実篤さんが、かつて言った。
 「死んでしまった人びとに対してはぼく達は力はないが、しかし死んだ人のまごころが、生きているわれらに働きかける力は、絶大なものがあると思う」と。その時の戦没慰霊の旅でも、とくにこの事実を痛感した。死者と生きている者との一期一会の旅だった。だからおなじ「ラバウル小唄」でも、出征将兵が歌うのと、この旅のように、ラバウルを離れるとき歌ったのと、その趣きを異にするのは当然である。一期一会であればこと、自分の胸中でいつも対面している、とのパラドックス(逆説)が真理として成立することになる。
 このことは、場所や、空間にも通じる。かつて鳥取の砂丘で、「帰るとき、来たときよりも美しく」との標識を見受けた。心なき観光客への警告としもすぐれている。観光地に限らず、電車やバスの車内でも、また劇場や講演会ででも、この警告に従うべきだ。場所と人間の出会いも、また一期一会の縁である。
 会ったときが別れのときだ。同じ人や同じ処と再びめぐりあえる、との保証はどこにもないからこそ、出あいの縁を大切にしなければならぬ道理が明らかとなる。
 一期一会であると気づかされると、自主的に自分の言動のあり方や、ものの考え方が、果たしてこれでいいのであろうか、と判断が出来るようになる。正しい生きざまを、自分で決定づけられるようになる。
 わたし達の乗っている機は、ひたすら北上を続けた。 帰る国のあることをしみじみ有り難いと思う。

日々の別れ

会者定離
 一期一会は、また「会うことは、別れのはじめ」というニュアンスが感じられる。仏教思想の、会うものは、必ずいつかは別れなければならぬという「会者定離(えしゃじょうり)」にも通じている。会者(会うもの)とは、必ずしも人間同士だけではない。刻々の時の流れと出会い、そのつど別れていく。そして「いま」というときには二度と出会えない。
 江戸時代の禅僧で、広く世界に知られている白隠禅師を大成させた信濃の正受老人に、

あさましやおもえば日々の別れにて 昨日の今にまたもあわれば

の一首がある。「昨日の今に再び会えない」からこそ、今を大切に生きなければならない道理を知る。
 ところが、一期一会とか会者定離とかいうと、とかく別離の哀感をうたいあげる無常観に限られがちだ。しかし、ともに充実した人生を生きるには、人はもちろん、時間や場所との出会いを大切にせよ  と教えているのを忘れてはならない。

人生の旅

バイパスは無い
 「一期一会」というと、何となく寂しさを感じる。しかし一期一会を悲哀の感情だとかたづけるのは正しくない。積極的に充実した生き方をするにふさわしい価値観とすべきであろう。
 それには、生涯(一期)のうちで、ただ一度の出あい(一会)だ、と「一会」をいわば「一期」の中に包括するのではなく、一期がそのまま一会であるとすべきであろう。すなわち“いま"を大切に生きて、はじめて生涯が充実するわけだ。

いまは   いましか無い

いまは 帰って来ない

いまを大切に生きよう

と繰り返し自分に言い聞かせる。
 このごろ、あらためて佐藤一齊の、

少ニシテ学ベバ、壮ニシテ為スアリ

壮ニシテ学ベバ、老イテ衰エズ

老イテ学ベバ、死シテ朽チズ

の言をわたしは深い悔恨の念にかられながら口ずさまずにはおれない。
 佐藤一齊は江戸末期の儒者で、「言志録」は彼の著書の中でもとくに有名である。言志録は、学理や学則を説いて人間のこころのたたずまいを述べ、四部からなっている。彼が四十歳のときに書いたのが「言志録」、六十歳で「言志後録」、七十歳で「言志晩録」、その後さらに「言志鋤i録」を書く。この四部作を「言志四録」という。上掲の言葉は「言志晩録」に見える。つまり、佐藤一齊が七十歳のときの述懐である。
 七十歳といっても、現代人は人間の寿命の返金年齢が七十一歳余であるから、世間でも多く見うけられるが、昔の七十歳は中国の詩人杜甫の曲江の詩に「人生七十古来稀」とうたわれるように数少ない高齢者である。それにもかかわらず佐藤一齊は自信に満ち、体験をこのように言い切る。
 長寿の秘けつは“若いときに勉強しておくこと"にあると聞こえるようだ。
 若いときは、人間の一生では二度と出会えない。青春もまた一期一会である事実にまちがいはない。すると、青春の価値ある生き方は、若き日を毎日精いっぱい生きる点にある。この真理に今も昔も変わりない。この努力が心身の若さを長く保つゆえんであろう。


禅のこころに学ぶ 『一期一会』 松原泰道 著 より



ichigoichie


「禅のこころに学ぶ 一期一会」「禅のこころに学ぶ 行雲流水」「禅のこころに学ぶ 日々好日」の3冊は、禅について書かれた大変いい本だと思って愛読しております。悲しいことに発行元の総合労働研究所は2003年4月に破産勧告をうけて普通の書店では手に入りません。書籍の譲渡を受けた「あしざき書房」さんより通信販売されております。私もここより購入いたしました。現時点での在庫はサイトでご確認下さい。


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